経営における効果的な情報収集とは
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一次情報に当たる習慣を持つ
情報収集の第一歩は、できるだけ「一次情報」に当たることだ。一次情報とは、農林水産省の統計・報告書、企業の公式発表、学術論文など、解釈や加工が加えられていない情報源を指す。ネットやSNSで目にする多くの記事は、それをだれかが解釈・要約した「二次情報」であり、発信者の視点やバイアスが必ず介在する。
もちろん、一次情報は無味乾燥で読み取りが難しい場合もある。そのときは、迷わず発表者に直接問い合わせてみよう。農林水産省の担当部署は、意外なほど丁寧に説明してくれるものだ。また、信頼できる解説記事を読む際も、必ず出典を確認し、元のデータや報告書に立ち返る習慣をつけてほしい。
「ファクト」と「オピニオン」を切り分ける
情報に触れるとき、常に意識しなければならないのが、「ファクト(事実)」と「オピニオン(意見)」の区別だ。「備蓄米の売り渡しが始まった」はファクトだが、「価格が下がる可能性がある」はオピニオンである。この二つを明確に切り分けずに経営判断を下すと、見通しが大きく外れるリスクがある。
特に注意が必要なのが、断定的な表現だ。複雑な状況が交錯する現代において、物事を「白か黒か」で断定することは極めて難しい。しかしSNSは字数制限があるために、情報が単純化・断定化されやすい。「〇〇が絶対に上がる」「△△は終わりだ」といった文言には、まず疑いの目を向けるべきだ。その主張を支える根拠はなにか、データに恣意的な切り取りはないか、論理の飛躍はないかを、冷静に問い返してほしい。
最大の敵は「自分自身のバイアス」
情報の質を高める上で、もっとも見落とされがちな落とし穴がある。それは、情報を受け取る自分自身のバイアスだ。人間には、自分の考えや信念を肯定してくれる情報ばかりを無意識に集め、信じやすい「確証バイアス」という認知の偏りがある。たとえば、「今年は米価が上がる」と信じている農家は、それを裏付けるニュースにばかり目が向き、反対の情報を無意識に無視してしまいがちだ。
さらに、インターネットの仕組みもこの偏りを助長する。一度検索すれば関連情報が次々と送り込まれてくる「フィルターバブル」や、同じ意見が反響し合う「エコーチェンバー」現象が、知らず知らずのうちに視野を狭めている。意識的に、自分とは異なる意見や普段触れない分野の情報にアクセスすることが、偏りを修正する有効な手立てとなる。
クリティカルシンキングで思考を鍛える
これらの習慣を体系化したものが、経営学における「クリティカルシンキング(批判的思考)」だ。あらゆる情報を鵜呑みにせず、「なぜそう言えるのか?」「他の可能性はないか?」「その前提は正しいか?」と問い続けることで、物事の本質を見極めようとする思考の訓練である。
クリティカルシンキングは、「人の意見を否定する」ことではない。自分自身の判断プロセスを点検し、思い込みや論理の欠陥を取り除く内省の作業だ。忙しい農業経営者にとっては一見遠回りに見えるかもしれないが、誤った情報に基づいた経営判断は、取り返しのつかない損失につながりかねない。農業経営をめぐるスピードが年々速くなっている今日、この思考習慣の有無が、経営の明暗を分ける局面も少なくない。
正しい情報が、正しい経営判断を生む
世界に溢れる情報の中から正しいものを選び取ることは、だれにとっても容易ではない。しかし正しい経営判断は、正しい情報の上にしか成り立たない。情報源を評価し、内容を批判的に吟味し、自らの偏りを自覚する。この地道なプロセスを日々繰り返す習慣こそが、農業経営者としての判断力を磨く最善の道だと私は信じている。
現場を離れる時間が少ない農業という仕事だからこそ、限られた情報接触の質を最大化することが問われている。「知る力」を鍛えることが、「稼ぐ仕組み」を作る第一歩なのだ。
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農業経営者、あるいは経営幹部として押さえておくべき代表的なフレームワーク等の技術を用いながら、食農関連企業のケーススタディに取り組むことで経営戦略の全体像を理解します。また、激変する環境下で農業ビジネスを展開していくための戦略的思考力を養います。
執筆 合瀬 宏毅
一般社団法人アグリフューチャージャパン 代表理事 理事長 / AFJ日本農業経営大学校 校長
1959年 佐賀県生まれ。
山口大学経済学部卒。NHKスペシャル、モーニングワイドなどの制作を担当し、経済番組のプロデューサーを務めたあと、「食料・第一次産業」を中心とする経済問題担当の解説委員。2017年解説副委員長。
これまでに農政ジャーナリストの会会長、食料・農業・農村政策審議会委員などを務める。