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輸出を経営に組み込む意義

公開日:

合瀬 宏毅 Oose Hiroki

一般社団法人アグリフューチャージャパン 代表理事 理事長 / AFJ日本農業経営大学校 校長

本稿では、農業経営における輸出の意義と、海外展開に必要な視点や知識を整理するとともに、AFJ日本農業経営大学校が農林水産省と共に立ち上げた「海外輸出を体系的に学ぶ1泊2日集中プログラム」の取り組みを紹介します。国内市場が縮小する中、世界に目を向けることで自らの経営を見つめ直すきっかけになれば幸いです。

国内に閉じない農業へ

農業経営において輸出をどう考えれば良いのか。多くの経営者が悩むところであろう。
国内では人口減少と高齢化で市場が縮む一方で、和牛や果物、日本茶など“日本の食”が世界で高い評価を得ている。政府は2030年までに農林水産物・食品の輸出額を5兆円に拡大する目標を掲げ、農業の成長産業化を本格化させてきた。
とはいえ、現場の農家にとって輸出は未知の領域だ。規格、品質、言語、契約、物流──これまでやってきた国内とは全く異なる世界である。
こうした課題に応えるため、AFJ日本農業経営大学校は2024年に農林水産省と共に「海外輸出を体系的に学ぶ1泊2日集中プログラム」を立ち上げた。

挑戦者たちが集う学びの場

この講座は、単なる知識習得ではなく、「自分の経営をどう世界に広げるか」を戦略的に考え、輸出に取り組む人たちを結ぶネットワークを構築する場としている。このため貿易の専門家など、第一線の講師陣による輸出のトレンドや仕組みを基にした海外戦略、展示会活用術など、実践的な学びに加え、輸出に取り組む様々な人が悩みを共有したり一緒に議論が出来たりするように、1泊2日の泊まり込みで実施した。
集まったのは国内では評価が十分に得られていない経産牛を改めて肥育し、東南アジアへの輸出を支援する地方銀行や、北海道で実際にコメを輸出したり、EUだけでなく米国でのこんにゃく文化の創出を目指す農業法人に加え、JA職員や自治体、食品企業など多彩なメンバー30人である。
講座でまず語られるのは、海外展開の原則だ。
「海外も、結局はビジネスの基本に忠実であること。」市場を調べ、記録を残し、論理で語り、丁寧に伝える。そして、金銭関係を明確にし、スピードとタイミングを逃さない。
この“当たり前”を愚直に積み重ねることが、世界で信頼される日本の農業経営者への第一歩となる。

伝える力と異文化を理解する感性が必要

次に学ぶのは、「伝える力」だ。
品質の高さだけでは、世界では通じない。消費者が求めているのは、味や価格だけではなく、「この食材を通じてどんな体験ができるか」「その背景にどんな物語があるか」だ。“モノ消費”から“コト消費”、そして“イミ消費”へ。講座では、自分たちの食材の価値を、体験やストーリーとして再構築する方法を学ぶ。
「あなたの食材が、世界の誰かの心を動かす」――それがブランドの始まりなのだ。
また、講座では異文化理解にも時間をかける。
日本では「言わなくても分かる」が通じるが、海外では「言わなければ分からない」。講師の(株)IAC 秋島一雄氏は、「ローコンテクストで伝える」ことの重要性を繰り返す。
相手の文化や宗教を尊重しながら、誤解のない表現で信頼を築く。言葉以上に大切なのは、相手の国を好きになろうとする姿勢だという。

仕組みで支える「世界と戦う戦略」

さらに、貿易の基礎知識も欠かせない。
インコタームズ、建値、決済条件、為替、関税、物流…。最初は難しく感じても、講座では実例を交えて一つひとつ丁寧に解説される。
「海外ビジネスは、勘ではなく仕組みで動く」という感覚が、自然と身につく。展示会での商談準備や、代理店契約のポイントも具体的に学ぶことができる。
プログラムの根底にあるのは、「日本の農業には世界に伝えるべき価値がある」という信念である。そして、講座を終えた受講者たちが口を揃えて言うのが、「輸出を学んだというより、“経営を学び直した”ようだった」ということだ。
輸出を経営に組み込むのは難しい。しかし海外を視野に入れることで、逆に自分たちの農業を深く見つめ直すきっかけになるのも事実だ。品質管理の仕組み、チームの役割分担、ストーリーの磨き方、顧客との信頼関係。
それらすべてが輸出の要素であり、同時に経営の基本でもある。

近くなってきた世界の食卓

世界市場は決して遠くない。SNSも翻訳も物流も、日々進化し、海外との距離は急速に縮まっている。
必要なのは、「知ること」「準備すること」、そして「挑戦すること」である。
上手くいくかどうかは実際にやってみなければ分からない。1泊2日の講座が輸出をためらっていた農家の後押しが出来たのではないか。AFJ日本農業経営大学校の「海外輸出を体系的に学ぶ1泊2日集中プログラム」をやってみての感想である。

本稿に関心を持たれた方におすすめの講座

本気で海外輸出に取り組みたい農業者ならびに輸出支援者を対象として行う、1泊2日の海外輸出実践研修です。理論(マーケティングプロセス等)から海外輸出の実際まで、体系的に輸出ビジネスを学習し、各産地にて、輸出ビジネスを牽引できる人材の輩出を目指します。※本研修は、農林水産省GFP農林水産物・食品輸出プロジェクト連携企画です。

  • 執筆 合瀬 宏毅

    一般社団法人アグリフューチャージャパン 代表理事 理事長 / AFJ日本農業経営大学校 校長

    1959年 佐賀県生まれ。
    山口大学経済学部卒。NHKスペシャル、モーニングワイドなどの制作を担当し、経済番組のプロデューサーを務めたあと、「食料・第一次産業」を中心とする経済問題担当の解説委員。2017年解説副委員長。
    これまでに農政ジャーナリストの会会長、食料・農業・農村政策審議会委員などを務める。